

コミュニケーション成立の第一歩。
子が発する「会話の種」を拾おう

バービー:娘は現在8ヵ月。これから言葉をしゃべり始めるにあたり、気をつけたい点についてお話を伺いたいです!
渡辺:個人差はありますが、1歳半で指差しが始まります。「ワンワン!」などと言い出したときに、初めて子どもから話題提供することができるようになるんです。たとえ猫であっても親が「本当だね、ワンワンだね!」と答えてあげるのが大切。会話の種を拾ってあげると、子ども・親・話題の「三項関係」が成り立ちます。これがコミュニケーション成立の始まりです。
バービー:それぐらいの年齢の子どもに会うと、つい芸人の性みたいなのが出てしまって。返すときに何か1個乗っけちゃうんです。「ワンワンだね。もしかしたら中に誰か入っているかもしれないね」みたいに。子どもはポカンですけど(笑)。

渡辺:相手の話を拾って返しているからいいと思いますよ。たとえ「ちがうよ、ニャンニャンだよ」と否定してしまっても、それも無視するよりはるかにいいこと。言語の発達というと、言葉のシャワーを……など量に目がいきがちですが、コミュニケーションが成立する、気持ちが共有できるなど、心の発達との関係が深いんです。
つい出てしまう
おふざけノリは、要フォロー

バービー:親とコミュニケーションをどうとっているかは、保育園や学校ですぐわかりますよね。「ワンワン!」に対し「そうだね、ワンワンだね」と返す家庭もがあれば、親が一緒に「ワンワンワン♪」と言って踊っちゃう家庭もあったり(笑)。コミュニケーション次第で、全然違う子になりそうです。
渡辺:そういうユーモアがあるのはそのご家庭が持っているよいところ。ユーモアを育てるというのは意外と難しいんですよ。
バービー:えー! それは初耳です。
渡辺:7歳ぐらいになると、相手が皮肉を言っているのが分かるようになります。「き~ら~い♪」といった言い方なら、本当は嫌いじゃないのにふざけて言ってる!と察しができる力は必要。ユーモアが育つのは、親が持っているセンスやほかの家庭にはないような返しが来る、そういうところで獲得していくんじゃないでしょうか。
バービー:夫がそういうコミュニケーションをしがちなんです。本気ではないけど、わざとネガティブな言葉を使うんですよね。「なんだこのヤロー♪」とか「そんなことしちゃダメじゃないかよぉ、このヤロー♪」って。私としてはやめてほしいけど、「冗談だから」と言われるし、娘も笑っているから別にいいかと思いながらもモヤモヤして。

渡辺:今聞いたトーンとしては、怖い感じには聞こえませんし、ふざけているのが伝わるからいいとは思うんですけど、子どもって“モデリング”という真似る能力がすごいので、どこかで「なんだこのヤロー♪」と言ってしてしまうことがあるかも。
バービー:それがいちばん怖い! 私たち、普段の言葉遣いがあまりよろしくないので(笑)。保育園でも言いますよね……。
渡辺:模倣力があるので、真似したことを外で言うのはあります。年齢が上がったら「これはお家の中ではふざけて楽しいけど、お友だちによってはびっくりするから言わないようにしようね」という説明が必要ですね。

バービー:本当ですね。言葉遣いもそうだけど、コンプライアンス的な概念も家庭の中だと緩いじゃないですか。それが娘に伝わって、外で言うようになったらどうしようと懸念していて。
渡辺:鳥かごのように神聖な環境で生きることは難しいもの。よい言葉に触れるだけでなく、嫌な言葉を投げかけられたりと、人生の中で試練のジャブは必要です。たとえば言葉の大切さを教えてくれるような絵本読んだりして、こういう時はこういう言葉を使わないようにしようねと伝えてみるのもいいでしょう。
バービー:話して説明することってやっぱり大切。親から直接話すだけでなく、間接的に絵本などを通して教えてあげるのも一つの手ですね。
「会話って楽しい」体験が
語彙力アップの秘訣

バービー:今って、子ども相手にあえて赤ちゃん言葉を使わない人も多いように思います。「ワンワン」「ブーブー」という赤ちゃん言葉ではなく「犬」「車」など。
渡辺:日本語は赤ちゃん言葉的なオノマトペが多く、やさしいイントネーションは、子どもも親しみやすく分かりやすい。それに合わせて会話するのは非常にいいこと。会話が楽しい、言葉を覚えるのって楽しい!というところに重きを置いた方がいいですね。また、「マジ」「やばい」を多用化しているのが現代。親の感情表現がそればかりになると、子どもの心の豊かさが広がりません。「今日は爽やかな風が入ってきたね」というのが「マジ風強い!」だと、言葉と気持ちがリンクしたさまざまなボキャブラリーは獲得できません。

バービー:大人になってから、言語化できるかできないかで、生きやすさはだいぶ変わってくるなって思うようになったんです。そのためにも語彙力は必要ですよね。
渡辺:私たちは小説を読んだり映画を観て、今まで言葉にできなかった自分の気持ちを理解したり、学ぶことができます。自分の気持ちを言い当ててくれる、作家の文章やセリフに出会えると幸せな気持ちになりますよね。
バービー:そうですね。私が子どもに望むことはただただ幸せになってほしいということだけ。幸福度を上げることをしてあげたいんです。そうすると、私の中では言語化と運動習慣、あと道徳の概念。これしかあげられないなって。
渡辺:ただ考える、記憶するという認知的なものだけではなくて、感じる、焦らない、諦めない、粘り強くするといった非認知的なものを早いうちから教えることは大事ですね。

子どものエンドレスな遊び
どんな対応をしたらいい?

渡辺:1歳半ぐらいになると積み木でブッブーと遊んだりし始めます。これは積み木とわかっているけれど、車に見立てているということ。発達心理学的にいうと「表象を獲得した」といいますが、イメージで遊べるのは人間しかできないことです。私たちの生活はイメージで豊かになるんです。でもほとんどの親は「また同じことをやって……」と見過ごしてしまう。イメージで遊び始めたら、ぜひ親がサポートして遊びを膨らませてほしいですね。
バービー:アーティスティックな活動の始めの一歩って感じなんですね。
渡辺:研究を通じた面白い発見があって。子どもは同じ遊びを何回もやりますよね。何回もコロコロ転がすけれど、実は同じではないんですよ。コントの練習も、何回も繰り返すけど同じことはやりませんよね。言い方をもう少し早めた方がいいなとか、やりながら何か学習している。子どもも同じことをやっているようで、角度や向きを変え、繰り返しながら勉強しているんですよ。
バービー:子どもってすごい能力を持って産まれてきているんですね。素晴らしい! 飽きもせずに何回も同じことやるなと思ってしまいそうですが(笑)。
渡辺:子どもも遊びながら研究をしているんです。できれば、「こう投げたからこう曲がったね! すごいね!」など、もっと褒めてあげましょう。とはいえ、同じことを繰り返すのを見ていると大人のほうが辛くなっちゃいますけどね(笑)。

バービー:先生のお話を伺って、より自分らしく育てていいんだ!という気持ちになりました。マニュアルや教科書みたいなものがあるとどうしてもその通りにしたくなってしまう。だけどそんな完璧にならなくても、各家庭の個性を大事にしていいんだとわかってホッとしました。今日は本当にありがとうございました!
渡辺:赤ちゃんにベストな環境を与えるために、何をしたらいいか必死に考え、真面目に愛情を与えようとしすぎてピリピリしてしまう親御さんは多いと思います。赤ちゃんはいろんなことを発信しようとしています。それをよく聞いて応答してあげれば、色々なことがスムーズに回っていきます。生命が産まれた歓びを味わって、ゆっくりゆったりと構えましょう!