<INDEX>
こんなときはなんて言えばいい?
やる気を引き出す、子どもへの声かけと対話
お悩み1.「すごいね!」と言いすぎてチャレンジしなくなった……
お悩み2.注意するとやる気を失うんです……
お悩み3.声かけのタイミングがわかりません
お悩み4.細かいことが気になってしまう!
お悩み5.ご褒美はあげないほうがいい?
お悩み6.終わらせるとき、なんて言えばいい?
<教えてくれた先生>
島村華子さん
児童発達学研究者。上智大学卒業後、バンクーバーに渡りモンテッソーリ国際協会の教員資格を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、オックスフォード大学にて児童発達学の修士、博士課程修了。現在はカナダの大学にて児童教育の教員養成に関わる。無条件の子育て・教育全般について発信中。著書『自分でできる子に育つほめ方叱り方』は12万部のベストセラー。
こんなときはなんて言えばいい?
やる気を引き出す、子どもへの声かけと対話
ママ・パパから寄せられたさまざまな学習時の子どもへの声かけや対話についての悩みの中から、6つのシーンをピックアップ。それぞれについて島村さんにアドバイスをいただきました。
<お悩み1>
「すごいね!」と言いすぎてチャレンジしなくなった……
「結果を褒めすぎたかなぁと思っています。単純にできたことが本当に『すごい!』と思ったので褒めていたのですが、難しい問題が出ると『これ難しい』と言ってやらなかったり、好きなプリントしかやらないようになってしまいました」
<島村さんからのアドバイス>
具体的なプロセスにフォーカスした
声かけやフィードバックを
「『すごいね!』『えらいね!』などの、結果ばかりに集中した褒め方や現実に見合わない大げさな褒め方は、『次にすごくなかったら褒められないかも』『すごくない自分への評価が下がるのが怖い』と子どもが思いチャレンジできなくなるなど、さまざまな弊害を生んでしまいます。褒めるときは、プロセスにフォーカスした声かけやフィードバックをするようにしましょう。努力や工夫した点があるなら、具体的に認める。つまずいてもがんばっているなら、終わった後に『あきらめなかったね』『ひとりでやりきったね』と伝える。誰でも言えるような褒め言葉ではやし立てる必要はありません。過大評価も過小評価もなく、具体的にシンプルに言葉にすることが大事です。学習の過程を見られないときでも、プリントに丁寧な字で書かれていたり、あきらめないで何度も書き直している様子が見られたりしたら、そこを具体的に伝えればいいのです」
<お悩み2>
注意するとやる気を失うんです……
「何回もやっているのに同じところで間違えたりすると、つい『どうしてできないの?』など否定的なことを言ってしまい、一気に子どものやる気を失わせてしまいます」
<島村さんからのアドバイス>
否定するのではなく
子どもと一緒に解決策を考えましょう
「否定や批判はコミュニケーションの障害になり、子ども本人にとっても、親子関係にとってもいいことはありません。能力や成果だけを批判するような言い方をされると、子どもは『自分はできないんだ、ダメな子なんだ』と存在価値や能力を否定するようになり、グロースマインドセット(自分の資質や才能は変えられると思える柔軟な思考)が育たないと言われています。同時に、自分と同様のミスをする友達に対しても厳しい見方をするようになり、他者批判もするようになります。ここで大人が考えるべきは、何度も言っているのに直らないのであれば、そのやり方や導き方に効果がないということ。過去を責めるのではなくどうしたら前進できるか、子どもと一緒に建設的に考えましょう。まずはできているところやがんばっているところを具体的に伝えた後、どうすれば次からミスをなくせるか、子どもと作戦会議を。子どもも親からの押しつけではないので、自分の決めた行動に責任をもちやすくなります」
<お悩み3>
声かけのタイミングがわかりません
「集中して取り組んでいたのが珍しく、嬉しくて『がんばってるね!』と声をかけたら、一瞬で集中力が切れてしまいました。声かけもタイミングが重要だと思いました」
<島村さんからのアドバイス>
集中しているなら声かけは不要
伝えたいなら別のタイミングに
「モンテッソーリ教育では、深い集中力こそが人間形成に不可欠と考えられていて、子どもが集中しているときは声をかけずに見守るのが大人の役割です。また、フロー理論では、人は一心不乱に集中しているとき(フロー状態)に深い満足感や幸福感を得ているといいます。ですので、大人の勝手な都合で声をかけて、そのフロー状態を邪魔するのはやめましょう。そのときに子どもが噛み締めている内的な充実感は、人間形成の過程において必要な時間です。声をかけて子どもの学習意欲を操ったり、大人からの一方的な評価を押しつけたりしないようにしたいものです。もし、嬉しい気持ちを伝えたいのであれば、夜寝る前など別のタイミングに『今日は集中してたね』とシンプルに具体的に伝えましょう。気をつけたいのは、これからもそうしてほしいというよこしまな気持ちをもって期待をチラつかせないこと。大人に褒められるからやるという外的動機につながってしまう恐れがあります」
<お悩み4>
細かいことが気になってしまう!
「字が汚いと、つい『もっときれいに書いて!これじゃ丸にできないよ』と言ってしまい、子どもがやる気をなくしてしまいます」
<島村さんからのアドバイス>
できていることに目を向けつつ
子どもとの対話を心がけましょう
「そもそも人間の脳は、ネガティブバイアスといって否定的なことに目がいくようにできています。たとえば、『この子は字がきれいに書けないんだ』という決めつけがあったとすると、その決めつけを確認するような事象ばかりに目がいってしまいがちです。そして、決めつけが先行すると、目の前にいる子どもの長所やできているところを無視してしまうことになるのです。<お悩み2>でお話したように、コミュニケーションの障害になるのは否定や批判ですから、できているところを探して、『この字はマスに収まって読みやすいね』『このハネがきちんと書けているね』など具体的なフィードバックをすることが大事です。そして、大人からの一方的なフィードバックではなく、子どもにもどの字がうまく書けたか聞いてみるなど、子ども自身が気づき考えて決められるように対話をしていくことを心がけましょう」
<お悩み5>
ご褒美はあげないほうがいい?
「『宿題が全部終わればテレビが見られるよ』や『勉強が終わったらおやつを食べようね』などとご褒美をあげるやり方をすると、スピードばかりが早くなって、理解できていないことが多く、ご褒美がないと勉強をしなくなってしまいました」
<島村さんからのアドバイス>
ご褒美ではなく、子どもが自分から
取り組むルーティン化や環境づくりを
「物的なご褒美や大げさな褒め言葉などの外的な報酬は、ご褒美が目的になってしまいがちという欠点があります。本来ご褒美というのは、学ぶプロセスにあり、学習がわかるようになって嬉しいという内的な満足感であるべきです。ただし、楽しくないと思っていることに対していくら声かけをしても、言葉で子どもを操っていることになるのでおすすめはしません。そこで、子どものやる気を刺激しない宿題などの場合は、ルーティン化や環境づくりを意識しましょう。寝る前の歯磨きのように、日々の生活に取り込んで習慣化させるのです。また、親も隣で仕事や読書をして、子どもが学習する場をみんながやるべきことに取り組める環境に整えます。そうすることで、子どもが自分からすすんで学習に取り組む可能性が高まります」
<お悩み6>
終わらせるとき、なんて言えばいい?
「一度学習を始めると、やることがなくなるまでなかなかやめないので、気持ちよく終わらせるための声かけに悩んでいます。もう夜遅いので終わろうと言っても、『まだやりたい』と言われてしまい、結局『おばけがくるよ』と怖がらせてやめさせてしまっています」
<島村さんからのアドバイス>
嘘や脅しは親子の信頼関係にも悪影響
対話して終わり方を決めましょう
「やめられないほどやりたいことがあるのは素晴らしいですが、気持ちよく終わらせたいという親御さんの気持ちもわかります。ただし、『おばけが出るよ』『大きくなれないよ』などの嘘や脅しは、長期的にはネガティブな影響が出るのでやめましょう。シンガポールの大学の研究でも、子ども時代に親に嘘をつかれたことがある人ほど、大人になった時に親に嘘をつく傾向にあるという結果が出ています。小さな嘘を続けることで親子関係の信頼がなくなり、子ども自身が不誠実になるのを助長する可能性もあるのです。その代わりに家族会議をしましょう。まずは『今日はたくさん宿題できたね』と具体的にフィードバックをし、その後に『寝る時間が遅いと明日に疲れが残って心配なんだ。どこまでやるか一緒に考えよう』とアイディアを出し合います。家庭によってはあらかじめ分量を決めておいたり、アラームをかけたりするなど、子どもにとっていちばんいい方法や環境を整えるように本人の意見も大切にしながら家族で決めましょう」
島村さんのアドバイスはいかがでしたか。子どものやる気を引き出すためには、プロセスを重視した声かけをしつつも、大人の思いや都合を一方的に押しつけずに、子どもとしっかり対話をすることがいちばん大切だということがわかりました。ぜひこのことを日々意識して、子どもの自宅学習を実りあるものにしていきましょう。
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