profile
美作天地さん/翔子さん
中古住宅プランナー/編集者
東京を中心に中古リノベーション物件を専門に不動産仲介をする〈カウカモ〉勤務。天地さんはマンションリノベーションの営業、翔子さんは物件紹介の記事づくりを手掛けるディレクターとして働く。
FAMILY:3人家族(パパ・ママ・長男2歳)
HOUSE TYPE:一軒家/フルリノベーション
HOUSE DETAIL:築92年/77.8㎡/1LDK+ロフト
AREA:東京都
こだわりの住まいについて
思い出の詰まった
古民家を住み継ぐ
美作さん家族の住まいは驚きの築92年。長らく空き家になっていた翔子さんの祖父母の家をリノベーションして暮らしている。「もともとあった家の天井を抜いてみたところ、天井高5.2mの大空間に! 一般的なマンションの倍ぐらいあります。この気持ちのいい天井と、趣のある梁や屋根の野地板が家づくりの主役でした」(天地さん)
もともと2DKだった間取りは、子どもがのびのび走り回れる仕切りのない1LDKに。リノベーションは、古民家リノベを得意とする建築家・宮田一彦さんにお願いし、ただ古めかしいだけじゃない、モダンで洗練された空間へと生まれ変わった。一方で、前の家から引き継いだという欄間や友人から譲り受けたという障子戸が、どこか懐かしい“実家感”を添えてくれる。「長く使われてきたものが近くにあると、単純ですが心がホッと落ち着きますよね。古いものを大切に使うことは子どもにとってもいい影響を与えてくれていると思います」
この家をリノベーションしたのは、まだ夫婦ふたり暮らしだった頃。今後は息子さんのために家をアップデートしていきたいと話す美作さん夫婦。「自分が子どもだった頃、この家の庭には砂場やブランコがあって、カブトムシの幼虫までいたんです。いつか小さな公園みたいにできたらと計画中です!」(翔子さん)
LIVING
段差に自然と人が集まる、
“小下がり”リビング
〈イサムノグチ〉のペンダントライトがぼんやり灯るリビングは、小下がりのある落ち着く空間。窓際の小上がりコーナーは縁側のような趣のある空間に。「夜、子どもが寝静まったあと、ペンダントライトのぼんやりとした明かりだけを灯して、ゆっくりするのもいいなと思うのですが、大体子どもと一緒に力尽きて寝てしまいます(笑)」(天地さん)
ちゃぶ台は下北沢の〈アンティーク山本商店〉で購入。「山本商店はちゃぶ台の宝庫。いろいろ見させてもらい、ちょうどいいサイズのものに出会えました」
小下がりスペースにジャストフィットする〈ACME Furniture〉のソファ。「座り心地はふかふかで、包まれる感覚が心地いいです。横にもなれるし、家族3人で座れる大きなサイズがナイスです」
庭を観察するのが好きな息子くん。リビングのアクセントになっている鮮やかなポスターは〈Artek〉のもの。「ポスターサイズの50×70cmの額がなかなか見つからず、〈amazon〉で購入したオーク材のものを空間に馴染むようワトコオイルで塗装しました」。下の黒いソファは〈カリモク〉で購入。
KIDS SPACE
家族団らんしながら
思い出のオモチャと遊ぶ
リビングと一帯になったキッズスペース。小上がりの段差は絵本を読むのにもちょうどいい。「床は厚さ3cmのスギ板。空気を多く含む素材なので、やわらかい肌触りで暖かく感じやすいという特徴があります」。主要なオモチャは小下がりエリアにまとめることで、家中にオモチャが散乱しにくいメリットも。「オモチャの中には、私たちが子どもの頃遊んでいたものや絵本もあります。私の実家も夫の実家もかなり保管してくれていました!」(翔子さん)
翔子さんが小さな頃に遊んでいたという味わい深い積み木と、〈KAWAI〉の木のままごとセット。収納箱は食器棚に、ふたはトレイとしても楽しめる。「子どもが好きなものって、未来もそう変わらないはず。いつか息子に子どもができたら、次の代に引き継げるように、私たちも大切に保管しておく予定です」
天地さんが5歳の頃、お母さんと一緒に描いた絵本。今は息子さんのお気に入りの一冊に。「当時の僕が好きだった、果物と『MOTHER2』のキャラクターが描かれています(笑)」(天地さん)
翔子さんが小さな頃愛用していたという〈Geuther社〉のスウィング木馬。床を傷つけない、据え置きタイプであるのがポイント。「息子の友だちもみんな必ず乗りたがります(笑)」(翔子さん)
日本の古い食器を中心に扱う吉祥寺の〈PukuPuku〉で偶然見つけた、小さな椅子。息子くんのお気に入りチェア。
翔子さんの母の実家である山口県の萩に行った際、材木屋さんで開かれていたフリーマーケットで見つけたぬいぐるみ。「息子が掴んでずっと離さなかった犬。子どものもの選びはおもしろいですよね」(天地さん)
DINING
古材に包まれて、
古民家の豊かさを体感
家の顔とも言える、天井高5.2mのダイニングスペース。「外構は30年前に修繕しているので特別古くはない印象なのに、中に入るとこの景色がどーんと飛び込んでくる。このギャップがおもしろいなと気に入っています」。新しく入れた床や柱などはワトコオイルのチェリー色で塗装。飴色に経年変化した古い木材ともすんなり馴染む。「屋根は味わい深い野地板を生かすために、あえて断熱材は入れませんでした。わが家は窓も多いので冬は寒いですが、夏は意外と涼しく過ごせます」
〈天童木工〉のダイニングセットは、〈D&DEPARTMENT〉で購入。「テーブルは長大作さんによるデザインで、なかなか手に入らないヴィンテージ品。曲げ加工が施された足が美しいですよね」
天井を高くしたことで生まれたロフト。今は大容量の収納スペースとして活用。中央にはキャットウォークを設け、逆サイドのロフトにも行き来可能に。「ロフトは今後柵をつけて、息子のスペースにするのもいいかなと検討中です」
吉祥寺の家具屋〈transista〉で購入したブックケースは、イギリス家具〈G-plan〉のもの。「わが家の家具は和家具だけではなく、外国のものも取り入れています」
翔子さんのワークスペース。朱色のライトはJean Prouveが手がけた名作の「ポタンス」。〈ACME Furniture〉のデスクは奥行き50cmで省スペース。デスクの上に飾っている押し花アートは、友人のブランド〈FORMA〉の作品。
〈天童木工〉のワーキングチェア。肘掛けとフレームの継ぎ目がない、職人技の光るアイテム。
KITCHEN
古い家に馴染む、
最新鋭のキッチン
柱を上手くかわしながら、開放感を重視したアイランドキッチン。「キッチンは造作でカスタムしていて、食洗機は海外製の〈AEG〉、水栓は〈GROHE〉などグレードの高い設備をチョイスしました。その分、キッチン台自体はなるべく簡素に。モルタルにラワンの角材を取り付けてデザインしています」。キッチン背面には大きな窓があり換気も◎。
食器は造作のカップボードに収納。トングやおたまなど、細々としたキッチン道具はシルバーとブラックで、家電や収納ボックスは白で統一し、すっきり整う見た目に。カップボードの上は、ちょっとした作業スペースとしても使えて便利。
白い3つのペンダントライトは、青山の〈pejite〉で見つけたもの。「益子焼の器でつくられた照明。キッチンの作業面だけをちょうどいい具合に照らしてくれます」
地球儀デザインが珍しい、アンティークもののコーヒーミルは翔子さんのお父さんが長年愛用していたもの。「挽いた粉が溜まる引き出しは意外と小さめ(笑)。わが家は朝しか飲まないので、これでも十分間に合います」
ドライフラワーと造花を組み合わせたキッチンの花は、今年5月に挙げた結婚式で用意したもの。花瓶は馬喰町のヴィンテージショップ〈HYST〉で購入。「隣の2つの花瓶は、妻の母の実家がある萩で700円ぐらいで見つけた掘り出し物です」
BEDROOM
すのこベッドで、
のびのびごろごろな家族時間
寝るときは、家族みんな川の字で。「以前は高さのあるベッドを使っていたのですが、どうしても落ちてしまうので、すのこの上にクイーンとシングルのマットレスを並べて使っています。ベッドが低いと広々感じられて、息子もでんぐり返しをしたり、のびのび遊べるようになりました」
寝室の入り口には、前の家から引き継いだ珍しいデザインの欄間を設置。障子扉も〈HandiHouse project〉の方に譲ってもらったもので、家のサイズに合わせてリサイズ。「中央に小さな障子戸がついているのがいいですよね。よくリノベで取り入れる内窓の概念もここで表現できそうだと思いました」
ベッドルームの壁はラワン合板を5mmぐらいの隙間を設けて貼り付ける「目透かし張り」でアクセントパネルに。床と同じチェリー色のワトコオイルで仕上げた。ブラケット照明は〈PACIFIC FURNITURE SERVICE〉 。
夫婦の衣服をしまっている押し入れ収納は、上段はコートやシャツなどのハンガー収納に、下段は〈IKEA〉の収納バスケットのサイズに合うように棚を造作。
築古の古民家のよさが最大限生かされた、美作さん家族の豊かな住まい。息子さんが大きくなったら、また引き継いでいけるように大切に育てていきたいと教えてくれました。古民家リノベのポイントや、家具のセレクトなど、ぜひ参考にしてみてくださいね。
photography/Eri Kawamura text/Runa Kitai illustration/Chika Osawa